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モモイロヒルザキツキミソウ

桃色昼咲月見草


漢字で表すととてもごちゃごちゃして賑やかしい名前だが、実際の花は空き地の草むらに紛れて風に揺られる儚げな色合いと薄い花弁の素朴な花である。


白浜に来て2年目の春、散歩中に咲いているのを見かけて写メを撮り、花に詳しい母に近況を交えて送信したら返信メールで「モモイロヒルザキツキミソウ」の名前を教えてくれた。

昼から月を待っている、なんだか一途な名前だと思った。

 調べてみると、元は北アメリカの出身だそうで生命力が強いのだとか。なるほど、だから毎年荒地でもしっかり咲き誇っているのだな、と納得した。




よく通る道に毎年この花をプランターいっぱいに咲かせる古いお宅があった。

この季節になると、道路に向かって淡い桃色が一斉に咲き誇って微笑むように揺れている姿が好きだった。この家のモモイロヒルザキツキミソウは意図して植えられ、手をかけられていることが伝わってきた。

数年前の秋、この家に住む高齢女性が息子によって命を奪われる事件が起こった。

日常的に振るわれていた家庭内での暴力が招いた最悪の結果であった。引き籠りで、暴力的な無職中年男となった息子との二人暮らしのなかで、高齢女性が何を思っていたのかは分かるはずもないが花や庭の手入れが日常の癒しだったのかもしれない。

女性がいなくなった翌年、無人となった家の石垣でふわふわと風に揺れている薄桃色の柔らかな花弁の花は健気に咲きつづけている姿に、人間の独りよがりな感傷とはわかっていても切なくていじらしいような気持ちになった。

家は人が住まなくなると、途端に傷みが激しくなってしまう。わずかの間に立派な廃墟と化した平屋の草木は猛々しいほどに伸び、誰にも気遣われることなく自由気ままに生えているその中で、朽ちかけのプランターの中で今年もあの花が道路を眺めながらフワフワと揺れているのを見た。

 
 
 

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